地獄の生活

 僕、五句亜苦獄時(ごくあくごくじ)は平凡なサラリーマンだった。ところがリーマンショックの影響で中小企業だったウチの会社にリストラされ無職となった。安アパートからも追い出され貯金も底を着いた僕は都心部の地下鉄で飛び降り自殺を図った。痛みは一瞬だった。だが、意識はまだ残っていた。
「あんさん、アホな事、しましたな~、まだまだ若いのに」僕の目の前に現れたのはしゃれこうべを付けた黒いローブの男だった。男は巨大な鎌を持って空中をホバークラフトのようにぷよぷよと浮いていた。僕はそいつが死神という事に気付いた。「これから大変でっしゃけど、すぐ慣れますわ」「え? 何に?」僕は死神の一言に思わず聞き返した。「決まってしゃろ、地獄の生活ですがな」そう、この小説のタイトル名にある『地獄の生活』とは家計が火の車という意味の地獄の生活ではなく、文字通りの地獄の生活だったのだ。

 死神が壁に用意した穴はまるでドラえもんに出てくる通り抜けフープのようなものだった。通り抜けフープのように一瞬でワープ出来るものじゃなく、真っ暗なトンネルが永遠と続いていた。死神に聞くと、この道を霊道と呼ぶらしい。ドラえもんのタイムマシンの時空間のような超空間になっていて四次元空間になっていた。稀に悪人や方向音痴、この世に未練のある奴は死神の案内から外れて霊道をさ迷うらしい。霊道をさ迷い歩き、たまに出口に出れる事もあるらしい。そういう奴等は自縛霊、悪霊と成り果てて現世に語り継がれる幽霊に化けるらしい。悪意のない幽霊は成仏することであの世に行けるが、悪人だった奴や死んだことを自覚していない奴は中々あの世に行けないらしい。死神はあくまでもあの世への案内役で現世に留まった幽霊を回収することはないそうだ。幽霊を回収するにも時間の制約があって500年単位の時が経たなければあの世から鬼を派遣出来ないらしい。幽霊を回収するのは地獄の鬼の役目だ。

「さぁ、着きましたで」死神が案内した場所は現世でいう市役所のようなビルの前だった。「へぇ・・・・・・随分、リアルなんだね、あの世って」「まぁ、あの世も現世と同じ時の流れを持ってますんで。死者の生前の記憶の念が強いほどあの世の世界も情報が更新されていきますんや」市役所の前は行列で整理券が配られていた。整理券はスーツを着た動物達が配っていた。「ほえ? なんで動物がスーツ着て喋ってるんだ」動物達は丁寧な口調で整理券を人間の幽霊に配っていた。「あの世では動物も人間も平等なんや。ほれ、キリスト教でもありますやろ。人間は皆全て平等やって」「ま、まぁ・・・・・・・そりゃあそうだけど」「あの世に居る神様は全ての命を平等と考えてるんや。この世界ではどんなにちっぽけだろうがどんだけ頭が悪かろうが絶滅してようが、全ての動物が仲良う暮らしてるんや」俺は動物と人間が一緒に暮らす世界と聞いて、神話世界のようなメルヘンチックな世界を想像していた。だが、現実は違っていた。「はい、整理券でございます。席を乱さないようにしてくださいね」俺に整理券を配ってきたのは直立二足歩行の人間サイズのゴキブリだった。生臭い臭いが俺の鼻を麻痺させていた。ゴキブリの公務員が整理券を配ってると後ろの方で買い物袋を持ったおばさんが奇声を発していた。おばさんは買い物袋でゴキブリの頭を数回叩きゴキブリを追い回していた。すると、おばさんは笛を鳴らしながらやってきた犬の警官数匹に取り押さえられ、どこかへ連れて行かれていた。「あのおばさんはどうなるんだ?」俺は死神に尋ねた。「交番、その次に裁判所やろな・・・・・・ゴキブリさんが怪我してたら、地獄かもしれへん。どっちにしてもアホなおばはんや。あんさんはトチ狂って基地外になったら絶対にあかんで」「地獄? 本当にあるの?」僕は驚いた表情で死神の方を見つめた。「当たり前や。この市役所は天国か地獄を決める為にある大事な施設なんやで。あんさんの生前で良いことが多ければ天国、悪いことが多ければ地獄や。100点満点形式で満点やったら極楽浄土や」「極楽・・・・? どんな世界なの?」「働かんでええ、旨いもんは食い放題、肉体が与えられて可愛いおなごとキャッキャッと、好き放題出来る、好きな姿で生活できる。何より、神様達と一緒に暮らせるんや、そりゃもう・・・・・・最高の世界や。ワテも想像してたらよだれが止まらへん・・・・・」死神の癖におじん臭い奴だと俺は思った。しかし、極楽とはもっとブッダやキリストが言う無欲・禁欲の苦行を耐えた者に与えられる世界でもっと無が広がる世界とばかり思っていた。

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