済社員(せいしゃいん)

 2025年の日本は正社員制度が崩壊し終焉した年だった。日本政府と経団連の決定だった。正社員制度が崩壊した今も尚、安定した身分保障と賃金の獲得が成されたのは政治家や公務員、大企業の役員程度だった。モチベーションが下がり、平均年収が1/2倍になった元正社員の僕達は済社員(せいしゃいん)と言われながらもフリーター並の待遇で正社員と同じ仕事を求め続けられた。日本のGDPは8位にまで転落して、優秀な技術者や科学者、若者はみなこの国を捨ててアメリカやヨーロッパ、アジアを新天地に目指した。英語も喋られない・何の技能も持たない・学歴も職歴も無い僕のような無能な若者はニートもフリーターも全て済社員として扱われた。済社員は作業着を着て、身体に番号の刻印が打ち込まれた。日本政府の決定だった。これ以上、若者の一人とも移民させないようにする対策だった。済社員の朝は早かった。朝の4時に出社して、夕方の6時に帰宅する。済社員は何故か工場に配置された。ラインリーダーは十年前に移民してきた黒人や東南アジアの外国人たちだ。僕らは彼等の命令に従って、ラインに流れてくる部品を組み立ててひたすら工程へ流す作業を強いられた。済社員の仕事は国の公共事業と聞いていたが、何を作る目的のものなのかは全く分からなかった。僕ら、若者の月収は約12万程度だった。この月収では結婚するどころか一人暮らしさえも出来ない。

「オマエ、ナンカイイッタラワカル? サボンナ! サッサトハタラケ! ミンナトオナジペースをマモルネ!」
「ひぃッ! 許してください!」

 拙い日本語を喋りながら、外国人の移民が僕の同期を鞭でバシバシと叩いていた。鞭の音は非常に鈍かった。ラインリーダーたちはラインの電子看板と腕時計を見て一人一人の作業ペースを監視した。まるで産業革命時のイギリスのような世界だった。少しでも作業ペースが遅れれば、鞭で打たれるどころか減給もされた。残業という概念は無かったが、同時に有給休暇も体調不良も認められなかった。みんなが同じ時間に出勤して、同じ時間に帰るというルーチンワークが週6日で毎日毎日続けられる。政府が職の無い若者を雇って何を作ってるのか分からない工場に派遣するようになったのは数年前の事だった。政府が何を作ろうとしているのか確認しに行った若者は誰一人戻ってこなかった。生活保護制度や年金、皆保険制度はとっくに廃止された。アメリカの軍事技術を購入してマザーコンピューターと呼ばれるスーパーコンピューターを開発した日本は余分な人口を削減する計画を実行した。食糧危機や財源収入の悪化を理由に働けない人達や年寄り、将来的に社会の役に立たないとされる人間は全てマザーに人生の審判を下されて抹殺されていった。子供を産むことを許されたのは政治家の一族や大企業の役員の一族、芸術家や知識人、有名人などの一部の人に限定された。しかし、彼等が子供を自由に産んでも良い訳ではなくて、マザーによってSEX行為を監視されて、生まれてくる子供の精子をマザーがチェックするなんていうのもザラだった。ニートや犯罪者対策が理由らしい。日本政府は自衛隊や警察官の数を減らしたいが為に社会的に害になるであろう人材をマザーコンピューターによって判別して貰って優れた精子だけを赤子として産むように決定した。

「高井、飯の時間だ・・・飯、行こうぜ!」
「え? もうそんな時間か・・・あぁ」

 仲の良い藤木が僕に飯を誘いに来た。僕はてっきり食堂に行くのかと思っていたが、藤木は監視カメラの位置をチェックしてそれをメモしながら工場を出て通路の裏手に回った。

「おい、何してるんだ? こんなところまで来ると、休憩時間10分が終わっちまうぞ」

 僕は藤木に警告したが、藤木は僕の言葉を無視した。

「奴等(移民共)になぶり殺されるぞ、おい」

 藤木は左右を見渡して、深呼吸して振り向いて僕の顔を見つめた。

「高井・・・」
「何だよ・・・」
「お前、日本政府が何作ってるか、気にならねぇか?」
「は?」

 僕は藤木の言葉に思わず聞き返した。日本政府が僕らを雇ってる工場で作ってる物が何か、を調べるのは死を意味するぐらい危険な行為だった。

「そんなもん調べなくても、大体想像出来るだろ・・・・・避難シェルターか核兵器か宇宙船とかじゃね?」

 僕がそう言ったのは根拠があった。僕が生まれた2015年頃にはアメリカと中国が戦争やって、中国が敗北した年だった。それからロシアがアメリカに戦争吹っかけて第3次世界大戦が始まった。資本主義と社会主義という思想同士の構想でもあった。ロシアは核兵器を用いたが、アメリカはロボット兵器で勝利した。それから、ロシアと中国は解体されるが、アメリカでは内戦が起こった。一部の富裕層と貧困層がこれまでの資本主義の在り方に納得できず、富裕層が貧困層へ税金があてがられるのに腹が立って、自治区を立ち上げようと内戦を始めたのだ。内戦の勝利者は富裕層だった。日本は彼等の言いなりになって、弱者救済措置を取る事を辞めた。そして、同時に株式会社の正社員制度も崩壊した。株式会社も8割以上が倒産した。それから無職が溢れるようになって、元々日本に住んでた移民達の声も大きくなっていった。世界戦争は終わったけれども、アメリカの富裕層の自治区が勝利するようになってから各国の資本主義の在り方が見直されて内戦が勃発するようになった。日本は戦争を毛嫌いしていたから、移民の意見をあっさり受け入れてロボットに労働させるのも一部に限定するようになった。政府主導で行っている工場生産も移民達の面子を守るものであったから、何も作っていない可能性もあった。とりあえず、藤木が馬鹿な事を言ってるから僕は適当な事を言ってさっさとその場から離れようと思ってた。

「じゃあさ、お前・・・全裸になってみぃ」
「は? 女に飢えすぎてトチ狂ったのかよ?」
「何言ってるんだ。いいから、さっさと脱げよ」
「バカ言うな。いくらオナニーも禁止されてるからって、俺に発情するなよ」

 僕は藤木の突拍子もない言葉からSEXの事ばかり想像していた。溜まっていたのは藤木ではなくて、実は僕の方だという事をこの数秒後に思い知らされた。藤木は額に手をやって頭を左右に振って、僕の作業着を無理やりひっぺ返した。

「おい、やめろ! 俺はそんな趣味無いぞ!」
「いいから! 黙ってろよ!」

 僕は藤木に全裸にされた。僕はアソコを隠して照れながら藤木の前に自分の醜態を晒されていた。藤木は顎を抱えて、何か悩んでる様子だった。

「おい、ケツを向けてくれないか」
「はぁ?」
「いいから、早くしろって!」

 僕は言われるがままに藤木にケツを見せた。藤木は何かを納得したようで、僕に服を着てもいいように言った。

「それで何だったんだ?」

 僕は服を着ながら藤木に尋ねた。

「お前のケツの割れ目付近の穴を見せて貰ったけど、やっぱ番号振ってるな」
「え?」
「前に消えた田中は掌に番号が振られてた」
「どうやら、身体の部位によって生産するライン場所や部品が変わるらしい」
「何だって、そんな回りくどい事を・・・・・・」
「さぁな。無職が何億人とも居るから、”A-1””あ‐1”とかで表現出来なかったんだろう。俺らの最終的な監視役はマザーコンピューターだから、分かり易く表示したかったんだろうな」

 僕は尻に番号が振られている事を知って、なぜだか尻がムズムズする感触に襲われていた。

「俺はな、政府の連中が開発してるのは巨大ロボットじゃないかと思うんだ。ガンダムとかエヴァみたいな、な」
 藤木は僕の尻を見て推測して、政府が作ってる物が何なのか予想し始めた。

「そんなバカな」
「人型ロボットを開発してるんだったら、そのロボットの部位を製作する為に俺らの番号の割り当てがその部位に位置してるのも分かる理由だからな」
「何の為に?」
「決まってるさ。戦争だよ」
「でも、人型の巨大ロボットは戦争に不向きだって、昔何かの本で読んだぜ」
「だがよ、ターミネーターとかスカイネットみたいなSF物が現実になったんだぜ。マザーコンピューターがスカイネットで、ターミネーターはアメリカがロシアの戦争に持ち出したロボット兵器だぜ」

 そう言えば、確かにそうだ。マザーコンピューターを開発して実際に運用しているのは日本だけだが、アメリカがロシアとの戦争に持ち出した兵器に人型ロボットが居た事を思い出した。その戦争が終わってから、人型ロボットが株式会社や労働市場に運用されるようになった。日本では正社員制度の必然性が無くなって廃止されるようになった。元々、正社員制度は廃止されるようだったけど、ロボットの社会運用でそれが早まってしまった。
 僕が頭の中で色々考えてると、食事終了のチャイムが鳴り始めた。

「とりあえず、話は今日の勤務が終わってからだ。高井、俺の家へ来いよ。父さんが飯作ってるからさ」
「あぁ」

 僕は藤木が話す工場の目的や今後の世界の事を想像しながら、さっさと勤務を終わらせた。家に帰ると、僕は家族の写真にキスをして足早に藤木の家へ向かった。

「オカエリナサイ、ボッチャン。キョウノバンゴハンハァ?」
「外で食ってくる、いい」

 僕に話しかけてきたスライム状のボール型ロボットの言葉を断ち切って、僕は自転車で藤木の家へ向かった。後ろを見ると、ボール型のロボットが誰かに連絡しているようだったが、その時は気にもしなかった。この世界では女性と男性は住居地区を別々に分けられていた。理由はSEX行為の禁止だった。マザーコンピューターの言い分は優れた人物同士の性行為しか認めないというものだった。一般人は女性と喋る事さえも神話の世界になっていた。俺達のDNAはその世代限りで終わるものだったのだ。家事や料理、家の事は全てロボットがやっていた。元々は労働市場で働いてたロボットたちだったが、今では俺達元正社員のポストに就いてるか、ボール型ロボットのように家事をする役割に成っている。

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