ニートなんだが、朝起きたら異世界のお姫様になっていた

1:第3次世界大戦
 2015年は最悪な年だった。クリミアとウクライナを吸収合併しようとしたロシアのちょっとした行動が発端で、世界は新たなエネルギー資源を巡る第3次世界大戦に突入していた。日本はアメリカ・東南アジア・韓国と手を結び、ロシア・中国・反イスラエル勢力と北朝鮮を相手に切り込み隊長的な役割を任されていた。日本はアメリカに守ってもらう名目の証明の為に自衛隊よりも先に俺達40歳未満の全ての男の無職やニート、フリーター、中卒を敵である中国の内陸地へ投下させる人間爆弾作戦を決行させた。安倍総理による集団的自衛権の決行だ。俺達は自衛隊の人柱として駆り出され、中国とロシア軍の壁として汚い花火のように散っていった。俺は防弾チョッキを身にまといその中に手榴弾や爆弾を大量に積み込んで、中国軍の銃撃隊の中に特攻して爆風の中で散ったはずだった。ところが、俺は全身を包帯で包まれて、どこかの民家で療養させられていた。誰が看病してくれているのか分からないが、俺は目が覚めると、すぐにその民家で再び眠りについた。

「目覚めてください! 姫様! 姫様!」
 幼児のような柔らかく温かい声が俺の耳元で囁いてきた。
「ん……なんだぁ?」
「なんだ、じゃございません! 今日は国を挙げての隣国とのお見合いをやる予定でしょう!」
「お見合い? 国?……」

 俺はキンキンと響く甲高い声に起こされて、脳をゆっくりと起動させて目を見開こうとした。不思議と身体の痛みは無かった。それどころか包帯の感触さえもない。あったのは耳の周囲にシルクのような肌触りがする柔らかい髪の毛の感触と高級ホテルにあるような甘いスイートな香りだけだった。とにかく目を見開いてみようとするが、羽毛布団が被さっていて風景が見えない。どうやら、身体が無意識の内に布団を被っていたようだった。

「いくら、季節が冬だからって、子供じゃないんですからね! いい加減起きてくださいよ! 私に世話されるのも最期なんですから!」
 甲高い声の主はそう言って、俺が被っている布団を思いきり取っ払った。俺は周囲の空気の冷たさで身体をアルマジロのように丸めた。その時だった。自分の身体の異変に気付いたのは。胸の辺りに柔らかいクッションのようなものがある事に気付いた。そして、股にアレが無い事にも気付いた。おかしいのはそれだけじゃなかった。目を開けてみると、ピンク色のベッドと地平線しか見えない大きな部屋の中に俺と紫色のセンジュナマコのような謎の生き物がフワフワと空中を浮いて、俺に喋ってた。どうやら、コイツが甲高い声の正体らしい。俺はセンジュナマコが自分の顔の目の前にまで現れた事に驚いて、ベッドから転げ落ちた。

「な、なんなんだよ! お前は! それとここはどこで俺は一体誰なんだ!?」
「はぁ……また、妄想癖が始まったぁよぉ……顔を洗って、鏡を見て、服をお着替えなさい。私を含めて、全ての従者があなた様をお待ちしておりますから」

 センジュナマコのような奴はそう言って、フワフワと空中を短い足で犬かきして部屋から出て行った。俺は自分の声が野太く低いいつものキモオタな自分で無い事に気付いた。自分の声は子供のように甲高く、高い声になっている事に気付いた。色々おかしい……俺は自分の顔を触ってみる。顔には髭も眼鏡も無くなっていた。着ている服を見ると、女のようなパジャマを着ていて服の中を覗いて見ると、胸がある事も分かった。俺は自分の身体のチェックをして、気持ち悪い事に鼻血を流してしまった。中学生か、俺は。俺は慌てて部屋の片隅に置かれていた巨大な等身大の鏡で自分の姿を確認してみた。鏡に映った自分の姿はまるでアニメやゲームに出てくるような美少女そのものの姿だった。耳の位置まで伸びているピンク色の髪に大きくクリっとしたまん丸の青緑色の瞳に透き通るような桃白色の肌とモデルのようなスレンダーな体型。自分がよく見ていた漫画やアニメのキャラクターのような理想的な姿だった。ただ、自分の身体が女になったことを考えると気持ち悪いが。俺は何かのショックで自分の魂がどこかの国のお姫様と入れ替わったことを悟った。つまり、自分はあの民家でいつの間にか幽体離脱をして、誰かの魂と入れ替わったんじゃないかと思ったんだ。だが、後であのナマコに聞いた話だが、どうやらこの人やお城や国は現実世界の実在するどこの国とも違うらしい。つまり、俺はいつの間にか異世界の住人……それも一国のお姫様と入れ替わってしまったという事だ。

2:キノコの配管工とさらわれた姫
 俺はとにかく自分の身に起きた事を必死に頭の中で整理しようとしていた。しかし、考えれば考えるほどパニックになるだけだから、あのナマコの言うように歯を磨いて顔を洗って、服を着替える事にした。服はまるでベルサイユの貴族連中が着ているようなロングスカートとひらひらが付いたファンシーな服装だった。そう言えば、ここって異世界の癖に水道も歯磨き粉もあった。しかも、俺の知ってるメーカー製品まであってドライヤーまであった。一体どういう世界なのかまるで理解出来なかった。従者……つまり、このお姫様の家来は全てあのナマコらしい。朝食の席に座ると、大臣から身の周りの世話をする奴まで全て、最初にあった、あのナマコみたいな奴だった。ナマコは体型はナマコだったが、顔には象の鼻みたいなのが付いてて気持ち悪かった。なんていうか、俺はどこかのゲームの世界に紛れ込んだんじゃないかと思った。

「姫様、朝食は?」
 最初にあったナマコみたいな奴が尋ねてきた。俺はニート時代、いつも1日1食だったから、腹は減ってなかった。だから、飯は要らんと言ったんだけど、ナマコみたいな連中に全員に怒られた。とりあえず、仕方がないのでシリアルを頼んでおいた。まぁ、ケロッグコーンフレークなんてこの世界にある訳ないだろうとタカを括ってたんだけど、出やがった……。俺は頭を抱え込んだ。まさかコーンフレークやシリアルがあるなんて……この国はどうやら俺の世界と共通した物が多いらしい。最初は夢かと思って、自分の顔をつねったが、夢じゃなかった。まぁ、そもそも感触や肌触りがある時点で夢も糞もあったもんじゃねぇか。コーンフレークは滅茶苦茶旨かった。流石は一国のお姫様という立場だけある。

「姫様、とりあえずまだ時間がございますので私が呼ぶまで部屋に戻っていてください」
「んー、分かった。でもさ、スーパーファミコンとか3DSとか無い?」
「は?」
「ほら……テレビとかゲーム機とかさ。一人で遊べるものだよ」
「あぁ……アレでございますね。かしこまりー」
「ゲッ! あるのかよ!?」
「左様でございます。すぐにご用意致しますのでお部屋でしばしお待ちくださいまし」

 俺は冗談交じりで、無茶な注文をしたが、どうやらこの世界にはゲーム機やテレビまであるらしい。城を移動してる時は中世的な物しか無かったのに、俺が欲しいと思った物は何でも用意が出来るようだ。まるでナマコはドラえもんのような奴だなって思った。部屋に戻ってから、しばらくするとナマコがゲーム機やテレビを持ってきた。形は若干違ったけど、ゲームソフトは現実世界と同じだった。俺はとりあえず、スーパーファミコンと『スーパーマリオワールド』をやる事にした。何故かこのお城に来てからは無性にマリオがやりたくなってた。多分、ナマコみたいな連中がキノピオで、俺がピーチ姫みたいな感じだからだろう。俺の頭には小さな王冠みたいなのも添えられていた。そういや、ナマコ達はそれぞれ色と顔が若干違ってたな。マリオをプレイするのは久々だった気がする。ニコニコ動画でプレイ動画はしょっちゅう見ていたが、自分がマリオをプレイするのは久々だった。俺は胡坐をかいて、思う存分マリオをプレイする事にした。

 部屋を見回してみると、俺が生きていた時に発売していたPSVitaやPS4、PS3、PSP、WiiUに3DSまであった。というか、古今東西のTVゲーム機は全て用意されていた。それどころかハイテクなポータブルラジオやノートパソコン、スマホにIpod、ウォークマン、ガラケー、タブレットパソコンに俺の顔よりもデカいデスクトップパソコン、液晶テレビまであった。俺は短い時間だから、と思って部屋にある電子機器を全て付けてエアコンを付けることにした。ゲームソフトや内容は現実世界のままだった。マリオそのものも殆ど同じだった。

 そういや、自分が何故マリオをやりたがってたのか、思い出した。この世界に来てから、自分の姿がピーチ姫みたいになってて、キノコ王国みたいな世界に来てるからだ。つまり、俺はゲームの世界か空想上の世界に魂だけが転送されたんじゃないかと思った。それよりも気がかりだったのはナマコが言ってた”お見合い”の話だ。俺はもしかすると、このまま隣の国の王子様か何かと結婚させられるんじゃないかと感じて、鳥肌を立てていた。今の自分の肉体は若い女だけども、頭の中身はキモい貧乏ニートだった男だ。いくら相手がイケメンとかでも男と口づけするのだけは嫌だった。いや、この世界がマリオみたいな世界だったとしたら、俺はマリオみたいなおっさんとお見合いさせられるんじゃないのか・・・・・・そう考えると、颯爽にこの世界から脱出する方法を考え始めていた。というか、マリオがお見合い相手なんだろうか・・・・・・と思った。もしかしたら、ルイージやワリオかもしれん。だとしたら、そっちの方が最悪だと感じ始めていた。

 色々と考えてる内に俺はマリオをプレイするのを中断して逃げる作戦を考え始めた。だが、その時には窓に誰かがへばり付いていた。
「だ、誰だ!」
 俺は窓にへばり付いてる黒い影に向かって叫んだ。黒い影は窓をパンチで割って、俺の部屋に押し入ってきていた。部屋に入ってきた奴は『サザエさん』に出てくる波平みたいな頭に、横髪がサラサラしてて紫色の長い髪をしていた。ビジュアル系が被ってるカツラみたいな髪だった。顔には無数の黒子と痩せこけていて、真っ黒に日焼けしていたおっさんだった。腹には腹巻をしていて、上下共に白い寝間着を付けていた変なおっさんが侵入してきていた。おっさんは俺の顔を見つめるとニヤりと笑って、舌を飛び出して唾を吐き散らしながら、喋ってきた。

「ま~た~、さらいに来てあげたよぉ♪ 姫! さぁ、今日も僕ちんのアドレナリンを沸騰させる素敵で可憐な悲鳴を聞かせて、お・く・れ」
 なんだ、このおっさんは。俺は背骨から全身の血管まで身が凍る感覚に襲われていた。もしかして、この世界における悪役なのだろうか? どうやら、本来のこの世界のお姫様は毎度毎度コイツに誘拐されているらしい。つまり、コイツはクッパのポジションということか。でも、どうせさらわれるのなら、中途半端なハゲのおっさんじゃなくて、亀の化け物の方がマシだったと感じていた。っていうか、おっさんに攫われる美少女とか現実世界じゃ洒落にならんぞ・・・・・・このおっさんが何歳なのかは知らんが、現実世界なら速攻で豚箱行だろうなって思った。日本の警察と正義のヒーロー気取りの奴の連携プレーは冗談なく凄まじいからな。俺も都内の電車に乗ってた時は痴漢が速攻で逮捕されてる光景を見て、身震いしてたよ。まぁ、逮捕された奴は冤罪だったけど、職と家族を失って、自殺したとかいう噂を聞いた。だから、このおっさんが現実世界に居た場合は存在自体がキモくて破廉恥だから、一生豚箱の中で臭い飯と単純作業だろうな、とか思った。

「あー、はいはい。あんた、クッパだろ?」
「んーーーー? クッパ? 誰だ、そいつ? 僕ちんの名前は・・・」
 俺は腕を組んで、おっさんから距離を離そうと後ずさりし始めた。おっさんが自分の名前を語り出したけど、俺はすかさず台詞を入れた。

「まぁ、いいや。とりあえず、あんたは悪役なんだろ? で、俺はいつも・・・あんたに攫われている悲劇のヒロインって事だろ?」
「え? 姫ちゃん・・・そんな口調だっけ? 僕ちんの記憶だと、もっと乙女チックな感じの口調だった気がするんだけど・・・」
「え? おほほほ・・・・・・そうよ! そうなのよ! 私、お姫様で乙女様なの・・・おほほほほ」
「うん! それでこそ、僕ちんのフィアンセだ!」
 何やってんだ・・・・・・俺は。今の自分が女だとは分かっていても、女口調を使うのはオカマみたいで気色悪く感じていた。おっさんは頬を染めまくっていた。ますます気持ち悪ぃな・・・・・・しかし、コイツ・・・今、俺の事をフィアンセ(婚約者)とか言ってたな・・・・・・俺は脳裏で嫌な予感を感じていた。

「じゃ、行こうか・・・」
「え? どこへ?」
「決まってるじゃない~か。僕ちんのおキャッスル(城)だよ。姫💛」
「おい・・・・・・待て・・・・・・俺、実は・・・お前の知ってる女じゃねぇんだよ!」
「何言ってるんだお? 君はどっから、どう見ても女の子じゃないか。声も身体も・・・いつもの姫だよ。まぁ、様子はいつもと違って、変だけど、リアクションはまぁまぁ同じだしね」
「ちょ、ちょっと・・・・・・待てよ・・・俺は、男! 男なんだよ!」
「またまた~! そうやって、いっつも時間稼ぎするんだから。今日は絶対に速攻で攫っちゃうぞ! あいつが来るまでに」
「ちょ、やめろ! やめろってば! バカ!!」
 やる夫みたいな喋り方をして、おっさんは俺に向かってクラウチングスタートのダッシュを決め込んできた。俺は後ずさりから、必死に走って逃げようとしたが、おっさんに無理やり捕まえられて、催眠スプレーをかけられて、眠ってる間に攫われてしまった。あと、どさくさに紛れて胸を触ってきやがった。おっさんの手は汗が染み込んでいて俺の服が汚されてしまった。その臭いはニンニクとあるサラリーマンの靴下とラフレシアと硫酸をミックスしたような強烈な臭いだった。

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