ニート狩り

今日も僕は不愉快な面接の腹いせをしゃれこうべだけになってしまった哀れな母の骸に与えていた。40歳を過ぎた僕は一度も正社員としての職歴を持つ事はなかった。両親はなけなしの金で国公立の文系大学へ入学させてくれた。しかし、僕が卒業した時にはリーマンショックが起こり、新卒時での正社員の経歴を持てずに今に至る。葬式は挙げられなかった。父は失業し、それから毎日酒に入り浸り、母と離婚して水商売の女と共に借金取りから逃げ続けていて消息を知らない。

母の亡骸は無料で市役所に焼いて貰ったが、墓を買えなかった僕は無縁仏の寺にさえも母の骸を入れる事が出来なかった。日本の景気がある出来事を契機に更に悪化した。その結果、葬式も墓も行う事が出来ずに、共同納骨の寺がパンク状態になっている事態だった。

最初の内は僕も母の亡骸に対して何度も謝罪を繰り返した。しかし、アルバイトや派遣社員の面接でさえも通らなくなった今の心境は日本も世の中も人類全ても憎かった。そして、一番憎かったのは自分を産んだ両親だった。僕は立派に膨れ上がった陰部を母のしゃれこうべに見せ付けながら、母の顎骨を交互に動かせて陰部の射精をするのが日課になっていた。アニメにも現実の少女とも縁がなかった僕は青春時代に溜め続けた性欲とストレスを白骨化した母の亡骸で発散する事しか出来なかった。学生の頃や20代の頃は貧乏故に、インターネットという奴を使う事が出来なかった。だから、この歳になるまでパソコンや携帯電話という奴も所持したことは無かった。いや、それどころか趣味と呼べるものもなく、欲しいと思った物も満足に買えなかった。だから、女の存在も母親ぐらいしか知らない。母の遺体は無残にもバラバラに砕け散っており、家の中は鮮血で模様替えされた斬新な光景しかなかった。母の遺体を僕は下処理した挙句に人の形に留めおく状態にしなかった。警察のお世話にもなったが、身内を食っただけという事実だけだったので、情状酌量ですぐに釈放された。母の身内が僕しか連絡がつかなかった事も大きいと思う。警察と役所は呆れ果てていたが、一応心療内科の受診をさせられた。僕はその結果に期待して生活保護に淡い思いを馳せていたが、僕の精神状態は至って平常だったので、すぐに釈放された。

リーマンショックの後に、日本は日本史上類を見ない二次災害を誘発させる大震災を起こした。その後に政権が交代して再び自民党政権下になったが、現在では消費税が30%というのが当たり前になっていた。更に社会保障費と年金、国民保険の納税額も10%程増額した。国民は当然そのような暴挙を流石に許さなかった。だが、優秀な若者や高学歴な男は日本を見限って東南アジアやヨーロッパに移住したので社会運動や革命が起こる事はなかった。分かり易く言うと、韓国や中国と同じ現象だった。優秀な者や高学歴な奴程、能力が高いので気に食わない環境があるのであれば、外国へ渡航するというものだ。日本ではリーダーシップを取れる若者や優秀な者が反社会運動に居なかった。だから、政府の横暴も若者は指を咥えて黙って見ておくしかなかった。

そして、優秀な若者が離れた理由はもう一つあった。それは2025年に起こった第3次世界大戦だ。中東やクリミア、中国で長く緊張状態が続いてきたそれぞれの地域はアフリカのエボラ熱から進化した伝染病を契機に、テロが先進国を中心に続発して、最終的に中東とクリミアと中国で同時期に戦争が発生した。中東のイスラム国がネットを通じた洗脳が先進国のニートたちに伝播して、それが自爆テロや集団殺戮テロに結び付いていった。更に地球環境の激変による大災害で、中国が人名救助をしている際に快くない複数の隊員が火事場泥棒的な行動を起こしたことにより、日頃から中国に鬱憤が溜まっていた国々が反発して戦争行為に発展した。ロシアは戦争の終盤頃に漁夫の利を狙おうとしたたかに待っていたが、ロシアが戦争に参入する頃にはクリミア地域や反ロシアのヨーロッパ勢力がロシアに宣戦布告を言い渡して、戦争は泥沼化していった。分かりやすく言うならば、冷戦時代から溜まっていたガスが火種によってガス爆発を起こしたようなものだ。アメリカや南米は中東のイスラム国とテロ支援組織を、ヨーロッパはクリミアと結託してロシアを、日本とアジア地域と最終的に参加したインドは中国と対立する事になり、第3次世界大戦は第2次世界大戦以上の参戦国と犠牲者を数多く増やす結果になった。

戦争では核兵器は使用されなかった。国際条約を破る国は一つもなかった。ナチスのように後世に渡って悪名が伝えられるのを避けたのだろう。しかし、イスラム国や中東地域は核兵器を使用した。それに見かねたアメリカは最終的にロボット兵器を投入したり、ステルス迷彩戦闘機を導入して戦争を終結に導いていった。中国とロシアは反発勢力の内乱によって武力が分散して政権が分裂して滅んでいった。その後、戦争行為で国力を消費しきったアメリカに代わって、インドがGDPトップになって、世界のリーダー的存在になっていった。

かつての私の恩師は「年寄りや女を庇護し過ぎる国はいつか滅ぶ」と言っていたが、その事態が間近に迫りつつあった。

2020年の東京オリンピックが終わると、不動産や土木建設産業は顕並倒産に追い込まれた。そこに第3次世界大戦中のアメリカとロシアの戦争が始まり、IT(情報)革命に次ぐロボット革命が誕生した。戦争が終了すると、これまで人間がリモートコントロールするしかなかったロボットが自律神経を有し、様々な現場や環境に万能に対応出来るSF映画のような時代が来た。全てのロボットをリモートコントロールするのはアメリカにサーバーが置かれているスーパーコンピューターの「マザー」だった。彼女はITシステムからロボットの自律神経、あらゆるソフトウェアを総合的に管理する自律神経プログラム(人工知能)だった。この世界のロボットは各個体に自律神経がある訳ではなく、大元となるマザーが操作する駒に過ぎない。マザーの別名は”マリア”だった。ロボット達における聖母だったからだろう。ロボットの頭脳プログラムはマリアの自動設定に基づくプログラムだった。つまり、自律神経プログラムを持つロボットの産みの親はプログラマーも兼ねているマリアであると言ってもいい。

この世界では既に”技術的特異点”というものが実現した社会だったのかもしれない。

ロボット達が人間の労働社会に組み込まれると、約8割の労働者が職を失った。更に日本では「正社員」雇用というものが公務員・政治家・技能職・冠婚葬祭を携わる祭祀職・管理職の人間以外には適用されなくなった。廃業に追い込まれた職業も数多かった。特に犠牲に成ったのは販売や小売職などのアルバイトだった。人間よりも愛想と容姿が良かったロボット達は第一次産業や第二次産業といった非製造業の職種に組み込まれていった。

更に追い打ちをかけたのはロボット労働までの繋ぎだった”移民”達の存在であった。彼等は製造業のライン作業や土木建設の現場などの労働を任されていたが、戦争とオリンピックが終了して不況下になると、彼等も無職となり生活保護の庇護を受けた。そして、ブレーン層と言われる高学歴な人間や優秀な若者の日本離脱。たちまちに日本の治安は悪化して、今ではアメリカのシカゴのスラム街のような光景も珍しくはなくなった。

日本政府はマリアの未来予測におけるデータから基づく勅令を受けて、治安維持と治安向上をスローガンに無職や労働に携わっていない者を犯罪者として取り締まる法律を発表して現在に至る。いわゆる”ニート狩り”という奴だ。ここ最近の日本の犯罪は無職や外国人が主流だったので、外国人は強制送還して日本の無職は安楽死か強制労働をさせるというのがならわしになっていた。強制労働がどういう労働かは分からない。それを知る者は生きて帰って来なかったからだ。働いてた時の同僚達は口封じの為に処刑されていると噂をしていた。それも事実かもしれないと、その時に僕は思った。犯罪者の管理と裁判を総合的に判断する役目もマザーが務めていたからだ。

ただ、聞いた話ではマザーに逮捕された無職達は脳と性器を綺麗に取り除かれてトゥワイフ(罪人)と呼称される囚人番号とパーソナルデータを網膜に刻まれて、死ぬまで労働させられるという噂を聞いた。

僕はニート狩りに遭わない為に必死になって、職を探し続けた。生活保護という制度はとうに立ち消えており、年金制度も破綻していた。富裕層は物価が安く工業ガスが流れない東南アジアに移住していった。しかし、貧困層や低学歴の日本人は日本から脱出する事も叶わない。

職を探し続けたが、インターネットを図書館やハローワークでしか利用できなかった僕は求人サイトを見る機会が少なかった。交通費もかかるので求人情報は専ら求人誌やハローワークが中心だった。しかし、今の時代では正社員の求人は公務員と団体職員と技能職ぐらいしか用意されておらず、アルバイトの求人も3Kの仕事で時給200円程度の仕事しか用意されていなかった。僕はこの世の全てを恨んだ。恨み尽して自殺も図ろうと考えたが、日本政府は自殺を防ぐために練炭やロープといったアイテムでさえもホームセンターなどで購入できないようにしていた。更に各家庭にはマザーによる徹底的な監視カメラが義務付けられているので、自殺を図る事は叶わなかった。正社員の求人が消えた時、日本人の20万人以上が毎年自殺する事態が起こった。その時に政府はプライバシーの権利を改正して、マザーによる徹底的な監視システムを各家庭に義務付けるようになった。自殺を遂行しようとしても、即座にマザーがコントロールする警察ロボット達が稼働して、自殺は未然に防がれる仕組みになっていた。自殺しようとした人間はマザーが統制する精神病棟で四肢を束縛されて、頭に特殊な装置(チップ)を埋め込まれて、頭に巨大な穴が空けられて自殺が出来ない身体に改造された。

 

ニートが何故ここまで嫌悪されるのか? というと、第3次世界大戦の頃に遡る。第3次世界大戦は核兵器こそ国家は使用しなかったものの、長期化する白兵戦と情報戦の工作によって、数多くの若者が犠牲になった2次大戦を上回る未曾有の大戦争だった。その時、戦争兵として志願した若者はフリーターやブラック企業の正社員、学生ばかりだった。一部の障害者と親のスネを齧って生き続けるニートと女性は戦争兵の徴収に巻き込まれなかった。ニートの中には戸籍をごまかしたり、住民登録をわざとしない者も居たからだ。その後、戦争で生き残った軍人が総理大臣となり、ニートに対して厳しい政策を採るようになった。彼は独自の政党を築き上げて、マリアと結託してニートや不労所得で稼ぐ人間を撲滅しようと考えた。その結果が上記のような条例や法律だ。まるでナチスのようだと指摘するような識者が居れば、そういう人たちも問答無用でトゥワイフへ指定された。トゥワイフはニートというよりはどちらかと言えば、政治犯やディスカッションに長けた知識人が多かった。現在の総理大臣である弐把(にわ)総理は徹底的な焚書・坑儒を行って、自分に敵対する政治家や知識人をトゥワイフへ祀り上げて抹殺していった。そして、有名ではないニートなどは平民によって殺してもいい制度が設けられた。

元々、世界全体が不景気だったので、経済水準はどこの先進国も昭和の戦前、明治初期程度に戻っていた。技術は革新したが、国民は配給される化合食糧加工品に満足できずに動物の肉に飢えていた。先進国の国民はどの国でもあるIT企業が開発したサングラスと特殊な腕時計を身に着けていた。スマートフォンの進化系と言ってもいい、そのサングラスは脳に電波信号を送って幻覚を見せつけたり興奮や心地よい気持ちを起こさせるフェロモンを放出させる麻薬的な機能も持っていた。平民達は常に飢餓に飢えていた。彼らが見る僕らの姿は二足歩行の家畜とほぼ同じだった。同族を狩って食うことは人道に反していたが、インドのカースト制度がベースになり、世界中のどこの国も食糧不足と生活水準が20世紀初頭まで逆行していると、人権などはあって無いような物に等しくなっていた。

 

思い返せば、日本史で起こした最初の過ちはやはり江戸時代初期に施行された鎖国条例であろう。あれから日本は世界交流を断絶し、約200年近くの長い時をダラダラと怠けるに至った。世界ではその時には科学の新しい発見や市民革命による君主制の破壊、移民による独立国家の建設、軍人出身の皇帝など密度の濃い歴史を送っていた。

日本が鎖国を取り止め、近代化と国際化に全力を降り注ぐようになったのは約200年後の明治時代からだった。西洋欧米諸国に負けじと日本でも富岡製糸工場などの多重労働を敷いたりしたが、結果的にあの工場での死者が我が国初の過労死者を産む結果となった。だが、後世においては過労死を出した工場を世界遺産として登録させる事態もあった。僕はあれを恥だとも感じたが、それを口に出す事で袋叩きに遭う怖さも知っていたから、何も言えずに居た。日本が世界にも類を見ない過重労働の先進国である理由は江戸時代の時の外国交流の経験値の低さが尾を引いていると言っても過言じゃないだろう。また富岡製糸工場を初めとする富国強兵策が即効性の速い資源拡大策でもあったので、戦後になっても尚、過重労働が過ちでないと過信する国民が大勢居たのだと思う。しかし、高度経済成長期とバブル景気を過ぎると、日本の景気は横ばいのままで国内産業が発展する事もなければ、労働者の採用条件も株式会社の都合の良いように歪曲されて過酷になっていく一方だった。万が一、労働が出来るとしてもその労働が景気を享受した世代達と同じ利益を得られる訳でもなければ、労働の密度が等しい訳でもなかった。しかし、国家と一部の大企業は労働者への評価は厳しく、高齢労働者に対する評価は過去と同じく、という方策を採りつづけたのであった。

もし、江戸時代の時点で日本が鎖国化しなければ、労働における精神論や労働者・若者に対する価値観だとか偏見というものも違うものだったかもしれない。しかし、現実は表面上の労働は近代化を果たしているものの経営者や政治家といった支配層達の精神観は江戸以前の中世期の君主におけるワンマンと何一つ変わらなかったのだ。

2015年にロシアが朝鮮半島を強制的に統合し、ロシアの経済が完全に崩壊すると、一時期は北海道に南下した事もあった。中国も経済が崩壊し、朝鮮半島や東南アジアに向けて進軍し始めた。ロシアの南下は北海道の厳しい極寒により食い止められたが、同年の5月頃に東海大地震と富士山の噴火が起こった。それから日本政府が覆い隠していた原発事故の真相もアメリカを通して明るみになっていった。ISISはアメリカの猛攻で崩壊したが、職がない世界中の若者の鬱憤は先進国の中央政府に向けられた。日本も例外ではなかった。東北大震災から東海大地震までの短いスパンでは資源や資金を十分に蓄える事は出来なかった。若者達は疲弊困憊しており、震災復興名目の税金をこれ以上払う事が困難になっていた。アメリカやヨーロッパでの若者達によるデモとかの影響を受けて、一部の高学歴なニートやフリーターが岡山の山村に立てこもった。彼等は原始生活に帰結しようと独立した政府を立てようとした時期もあったが、1万人も居た組織はあっけなく自衛隊や機動隊の猛攻を数日耐えただけで崩れ去った。リーダーだった人物は岡山の名家から盗んだ家宝の日本刀で自害した。しかし、その映像はインターネットの生配信で中継されて、世界中の無職や不労若者達のテロや革命を更に加速させる原動力にしかならなかった。

事態を重く見た日本政府は無職やニートの残党狩りを開始した。職に就いていない若者を強制的に軍隊や農奴として徴用する決定を下した。最初は職を与えられた事を喜んだニートやSNEP達だったが、ブランクの長い彼等が気の短い農家や猟師の下で修行をすることはコミュニケーションを取る上で困難だった。上司に当たる老人の農家などをニートが怒り狂わせてはニートが撲殺されるという事件もあり、ますますニートや無職と政府・社会との決裂を強める結果に成った。軍隊徴用されたニートたちも上司や仲間からのいじめだとかロシア・中国の脅威への鬱憤の吐き溜めにされて、ストレスの圧力や過労で亡く成るニートも少なくはなかった。

岡山での立てこもり事件は第2・第3の事件を誘発されるに至った。同様の現象はアメリカやヨーロッパでも起こり、資本主義の崩壊も目前に迫っていた。2016年にはGoogleやマイクロソフトが共同開発したソフトウェアとアメリカの軍事機関と日本の重機会社がロボットを開発し、史上初のアンドロイドを誕生させた。しかし、そのアンドロイドは人間から会社で働く労働、いわゆる経理・営業・運送・工場作業員・介護・教師・SEなどのデスクワークを全て奪い去った。アンドロイドを管理するサーバーコンピューターがマザーと呼ばれるコンピューターで、マザーの下した決定や管理に人間は逆らえないようになっていた。

更に追い打ちをかける事態は極端な少子化から巻き起こった移民労働政策の実施だった。これにより、アルバイトや派遣・非正規・3Kなどの仕事も全て消え失せた。

マザーの選民思想的価値観と非社会的生産人口に対する排他的思考と移民の利己的思考が融合し、移民が選挙に出馬出来るようになって、日本人の人口が4割を切り出すと、マザーから出された「ニート狩り」の法律施行も実施されるようになっていった。

当たり前だろう。移民や外国人達は戦争状態で毎日飢餓や空爆で死んでいく一般人を目の当たりにしてきたのだ。指を咥えて軍事協力してただけの日本人で、非生産労働者を養おうとする余裕は彼等に無いのは当たり前だった。

 

僕はニートや無職、犯罪者達が住む住居区で鳴らされる警報の音を聞いて、すぐに家から出る事にした。警報が出る時は家の地下か外出することでロボットの目を欺いてきた。元自衛官の隣人や元SEの隣人が居た事も大きい。僕は彼等の専門知識や経験を頼りに今まで逃げ延びてきた。だが、僕は彼等の為になるような事は何一つ出来ない。唯一出来る事と言ったら、僕が夢で見てきた空想の話を彼等に面白おかしく話せる事ぐらいだ。パソコンはあったけれど、ワードやエクセルの処理速度が1995年当時のWindowsソフトと同レベルのパソコンスペックでは十分に文章を書く事は不可能だった。

紙や鉛筆で記録する事も考えたが、この時代では紙や鉛筆、本などは戦争の影響下で石油が枯渇し、貴重品となっていた。いや、20世紀以前のアナログ製品はほぼ富裕層や公共機関しか持てない形になっていた。平民には何一つアナログの娯楽や遊びは身近に存在しない。

警報の音が遠く聞こえるようになるまでかなりの距離を走り続けた。中心街(ダウンタウン)では全ての歩行者達が同じ方向に向かって笑っていた。彼等はGoogleglassを身に着けて、スクランブル交差点のど真ん中で仮想空間を見ていた。僕はその光景を見て不気味に感じたが、近付いてくる警備ロボの足音を警戒して腰の曲がった老人からGoogleGlassを強奪した。

「な、何をするんじゃい!?」

「黙れよ、クソジジィ!! 老人はさっさとくたばれよ!?」

僕は焦っていたせいか普段使わないような乱暴な言葉を使って普段のストレスをぶちまけた。グラスを強奪してみんなが笑みをこぼしてる先の光景に目を通した。

 

眼鏡に浮かび上がってきた光景はイエス・キリストの聖母「マリア」を連想させる姿だった。6枚の天使の羽を生やしたそれは空中に立体映像が流されていた。

 

「うわっ! な、なにをするんじゃ!! ワシは眼鏡を若い奴に奪われただけじゃ! おい! やめろ! ワシは善良な市民じゃ!!」

俺が眼鏡を奪ったジジイはロボットに両脇を掴まれてどこかへ連れて行かれていた。その光景はまるで駄々をこねる子供のようだった。

俺は警備ロボに見つかる前に眼鏡の群集の列を乱しながら前を進む事にした。

おそらく、あのジジイはトゥワイフに認定されるんだろう。トゥワイフに認定される者の末路はロボトミー手術か人肉処理か冷凍睡眠、処刑などの4択しかない。

老人の肉は食える物じゃないから、おそらくはガス室で殺される末路しかないだろう。

俺は罪悪感を感じる事もなく、眼鏡をかけながら歩を進めた。

眼鏡に映る天使はおそらくマザーコンピューターの「マリア」なんだろう。マリアを擬人化したその像は脳波で俺の脳に語りかけてきた。

「さぁ! 皆さん! 今日も素晴らしい目覚めの朝が来ました! 今日もロボットと人間の未来の為に精一杯働きましょう!」

働く…? 何を寝言言ってるんだ。本来は人工知能やロボットなんていうものは人間の社会の為に活躍するモノなんじゃないか。お前等ロボットがホワイトカラーの仕事や公務員の仕事を牛耳るから、俺達人間の社会は…。

 

「おや? どうやら、私の考えと理想に従おうとしない者が居るようですね? でしたら、天国へ導いて差し上げましょうか?」

俺はすぐに思考回路を停止させて無心になる事に必死になった。

どうやら、マリアは人心術があるらしく、俺の脳波の動きから俺がどういう風に考えてるのかが分かるらしい。多分、Googleglassesはマリアのネットワークに連動していて、人間の脳波とも繋がってるんだ。

俺は人が居ない場所を目指した。人が居ない場所でGlassesを外して、それから考えよう。そう考えた。

「思考のアルゴリズムが途切れましたね。まぁ、いいでしょう。あとでロボットを手配して天国へ導きます。本日の12時からまた労働が始まりますが、皆さんには私達ロボットと人間の理想郷を作って頂く為に12時間以上は休憩なしで働いて頂きます。当たり前ですが、私達ロボットは24時間皆さん人類の為に永久に働き続けているので、皆さんは苦痛になりませんよね?」

「おぉーーー!!」

glassesを着けた者は皆雄叫びを上げていた。

俺は労働者が毎日にこんな集会を開いてたのかと思うと、背筋が氷を押し付けられたようにゾッとした。

おそらくマリアは脳波から各人間の情報を抜き取って、自分に反抗的な人間をトゥワイフとして処理して、残った人類にこういう集会を行う事で自己暗示の洗脳を行う事を習慣にしてたんだと思う。

労働者達は笑ったり涙を流したり、怒ったりする感情はあったが、個々がバラバラにそういった感情を行う事はなかった。トイレへ行く時間などもみんな一緒だった。

サングラスを着けているからよく見えないが、左右の人達の目玉の動きも全く変わる事がない。彼等は人間以上にロボット的な動作をしていた。

俺はその異様な光景に恐怖してマリアを破壊したい感情になった。

スティーブン・ホーキングやビル・ゲイツというかつての偉人は「人工知能が人間に反乱する」と予測していたが、実際には管轄と支配だった。

しかし、当の人工知能達にとってはその行動そのものが普通だと感じているのだ。第三次世界大戦の惨状を目の当たりにした科学者と技術者の一部がロボットにそういったプログラムを植え付けさせた物かと思った。

 

俺は全く動く事のない人混みの中を丁寧にかき分けながら集団の先頭から出る事を目指した。

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