ALICE

2016年02月27日

アリス

私は8歳のアリス。アリスと言っても、ルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』のアリスじゃないわよ。私が住んでいる世界は日本と世界が統合されて国という概念が無かった。この物語は遠い遠い未来の世界のお話。未来と言うと、読者のみんなは科学だとか技術が進歩した素晴らしい世界と思うかもしれないけど、この世界はみんなが想像するようなSFの世界じゃなかった。私たちの世界は度重なる核兵器の戦争が起こって、文明が崩壊した世界だった。その世界には動物はおろか植物さえも限られている。私達は雑草や木の根っこを植物に使い、昆虫でタンパク質を補給していた。中には社会的に生産性の無い身体が全く動かない老人を殺して血肉にしなければならない事態もあった。世界はそれだけ貧困化していた。私達の世界にはかつては“男性”と呼ばれる性が存在したらしい。だけど、戦争の影響で人間の男性は絶滅した。昆虫や単純な生物は放射能の影響か生き残る為の策か、自らの性別を男性に切り替えて交尾するものも居た。大半の少女は昆虫や動物の行動学に興味はなかったが、動物の解剖に興味がある私は遺跡や地層の中から発掘した本と呼ばれる書物と発掘した動物の化石を基に解析をしていった。学校でみんなに男と呼ばれる性が存在した事と動物は交尾から生まれるものだと主張したのだけど、信じる者は誰一人居なかった。母や大人達に話しても誰一人人間は性行為を通して生まれるものだと信じてくれなかった。大人達は人間はボール型のロボット“ルーボ”と少女が意思疎通を果たす事で新しい生命が少女の腹の中に宿っている事を宗教のように信じきっていた。

そうなのだ。この世界は文明が崩壊した中世のような世界観なので、文明以前の世界の歴史は断片的に都合よく繋ぎ合わせられており、宗教が支配していた世界のように、科学や技術といったものを完全に信仰していない世界だった。無理もないとは思う。人類の歴史は核兵器によって、一度完全に滅びたのだから。

8月に入り、夏休みを迎えると母が私に語り掛けてきた。

「アリス。悪いのだけど・・・お盆の時期になったら、森小屋の先生のサマースクールを受けにいってくれないかしら?」

私は搾り立ての牛乳を飲み干すと、牛乳コップをルーボの頭の上に乗せて、ルーボのアームからお手拭きを貰って口を拭った。

「嫌よ」

「なんでよ!」

母が眉をひそめて、腰に両手を付けて、真剣な眼差しで私を見つめた。

「先生って……あの死にかけのミイラみたいなお爺さんでしょう? 変人と評判の。私の見立てでは100歳を越えているわ。なんであのお爺さんを食料にしないの?」

「先生はきちんと仕事をしていらっしゃるわ。それにボケてもいないし、ちゃんと話せる。唯一の男性にして聖人なのよ」

「だから、なんで、私がそのお爺さんのところで科学や技術や数学と関連性のない下らない陶芸や絵画や神話の話を聞かなきゃ駄目なの?」

「アリス! あんたって子は! また、そんな捻くれた事を言って! 悪い子!」

母が私を打とうと手を上げたが、ルーボは警告音を出して言った。

「ビービー! ミラーサン! ソレはダメなキョウ、イクです!」

ルーボに言われて母は手を出すのを止めて困った表情をしていた。ルーボは私が生まれる前、ひいお婆さんの時代から居るロボットだった。ルーボのようなロボットは他の家にも居て、そこでの発言の身分や行動の正しさはルーボにあった。大人達はルーボの居る前では自分の意志で行動する事は出来なかった。もし、ルーボの発言を無視して行動する大人が居る場合はその大人は火炎放射器でルーボに焼き払われて犯罪者として食糧に変えられていた。だから、母も複雑な表情をしていたのだった。

「キャー! だから、ルーボって・・・・ダーイスーキー!!」

私はルーボに抱き着いた。ルーボの表面が熱くなっていることが肌で感じた。ルーボには感情表現があった。おそらく私の行為に対して照れているのだろう。しかし、ルーボは私に対して母と同じことを忠告してきた。

「シカシ、アリスサン……ミラーサンのイッタヨウに、センセイのモトでシュギョウシタ方がイイよ。ダイジナコトデ、ミンナモカヨウノダカラ」

「ほら、ごらんなさい! ルーボも正論を言っているわ」

母もルーボの意見を尊重して私に詰め寄った。

「ルーボ……それは科学的な観点では必要な事なの?」

「ハイ……ショウライテキニハアリスサンのタメニモナルアルよ」

「……分かった。森小屋の先生の家へ行くわ」

私の言葉を聞いて、母は安堵してルーボはロボットアームを引っ張り出して私を万歳万歳と持ち上げた。

私の家や人間達の家は草原の上に立っていた。木のパーツは簡単に解体する事が出来て、草原の草が無くなると、遊牧するといった生活が何世帯に渡って繰り返された。それは千年以上前から変わらない。人類の英知の結晶は前文明から生き残るロボットのルーボであったが、ルーボが遺跡や地層の中から発掘されるまでは先生が人類の英知の結晶だったらしい。先生は科学や技術という概念を知らない大人達と同じで、農業や文化的な学問ばかりを人間達に教えてきたらしい。千年以上前から居るという神話もあるが、私は先生はせいぜい100歳ぐらいの老人だとその時までは思っていた。私は科学的な学問や概念に興味があった。それは人類の生活を前文明並にまで回復させて前文明よりも優れた文明を築きたかったからだ。ルーボは私に色々な科学のお話やルーボの身体の仕組みを教えてくれた。私は5歳にして、ロボットと人間が性行しても子供は生まれない事を理解した。でも、周りの子供達は信じなかったし、大人達はロボットと人間が意思疎通して新たな命が生まれることを本気で子供に教えていた。馬鹿げた話だと思うが、この世界はこんな下らない童話のような世界だった。

私は自分の名前が嫌いだった。アリスの名前の由来は冒頭に読者の皆さんに話したように実はルイス・キャロルの『不思議の国のアリス』から来ていた。前文明の書物や文学は全て消えていたけど、デジタルデータはルーボを通してクラウドデータベースからインストールする事が出来た。インターネットのシステムはルーボが搭載しており、サーバー運営とネットのデータベースは全てルーボ同士が協力し合って共有していた。私の母は幼い頃から前文明の童話を聞かされ続けて、文学少女になっていた。空想するのが大好きな女の子だったらしくて、荒野の外れにある巨大な精神病棟の塔に幽閉された事もあったらしい。私はそんな母のDNAを受け持つのも嫌だったし自分の名前にもコンプレックスを感じていた。作者のルイス・キャロルも美少女が好きな変態だったという記録がネットに残っていたので、私はルイス・キャロルも嫌いだった。

8歳の女の子は全員が森小屋のサマースクールに通わなければならない理由をルーボに尋ねた。しかし、いつも答えてくれるルーボは私に何も返答しなかった。ただ、出かける前に言った一言は「アリスサマもオトナにナレバイヤと言うほど、理解してあの人にカンシャシマス」というものだった。私はその時は、「(そんなバカな)」と心の中でルーボをバカにしたけど、ルーボや母の忠告をよく聞くべきだったことを後になって、後悔した。

森小屋に出かける時の格好はアウトドアな格好ではなかった。『不思議の国のアリス』と同じボディスと裾の広がったスカートと青いエプロンドレスと紐の付いた黒いフラットシューズとウサギの耳のような黒いヘアバンドだった。私はブロンドの髪だったので、まさしくアリスのコスプレのような姿だった。唯一違う点は10メートル先の景色や空中まで見る事が出来る空間認識眼鏡をかけていることぐらいだが、殆ど透明なので写真上では裸眼の状態にしか見えない。母はその姿を見て、涙を流しながら、記録と言う事でルーボに写真を撮らせた。撮られた写真はデジタルデータベースに記録・保管され、インターネットサービスに提供されて全人類の「デジタル・トレジャー」という形でルーボとマザー・コンピューターと言われるサーバーが生き残る限りは半永久的に保存される事になる。山小屋に向かう前の少女達は顔つきや身体に変化が起こるらしいので、事前にデジタル写真を撮ってネット上に記録・保管して子孫末裔まで語り継ぐことが前文明崩壊後からの伝統になっているらしかった。

この世界は色々不自然でおかしいと常々思っていた。数学や科学や技術をタブー視して、封印・隠蔽している割にはルーボのようなロボットやマザー・コンピューターのネットサービスを利用して生活の知恵や社会管理を彼等に任せている。更には前文明で滅びたはずの男性が唯一一人だけ生き残っていて、少女たちはみんな山小屋のイベントを終えると、身ごもる事も不自然だった。普通の8歳は気付かないが、ルーボから禁忌とされてきた数学や科学知識を得た私は趣味が生物解剖や化石採集や考古学的な発掘だったので、論理的に物事を考えるようにしか出来なかった。だから、この世界は陰謀が渦巻いていて、大いなる計画の下で人類が家畜のようにコントロールされているのではないか、という風に物事に対して疑問を提言してから思考するようになっていた。

私が頭の中でアレコレ考えていると、ルーボが話しかけてきた。

「オジョウサマ、キケンハ一切アリマセンので、ゴアンシンしてイッてラッシャイマセ」

「ルーボ……貴方、私に何も隠していない?」

「アタリマエです」

「本当に? じゃあ、何で森小屋へ行くのに、こんな恰好なのさ?」

「ソレハ…」

ルーボは私がうつむいてる姿を見て、励ますつもりだったのだろうが、私はこの期に及んでルーボに森小屋へ行かなければならない理由をまた尋ねていた。森や山へ行くのに、社交界へ行くような格好で行くのは不自然に感じていたからだ。すると、母が間に入ってきた。

「アリス! 森小屋までは道路が整備されていて、獣や猛獣は一切居ないの! それに、入り口では先生が待ってくださっているわ」

「本当に?」

「ええ…」

「猛獣は居ないかもしれないけど、人間の男が一人だけ、私達を誘導するんでしょう?」

「そうよ。でも、大丈夫。先生は幼女が大好きなだけの、只の紳士ですから」

「なんで、幼女限定なの?」

「それは…」

今度は母が言葉に詰まった。すると、今度はルーボが間に入ってきた。

「オジョウサマ。ソレはキョウイクとイウ物はコドモのウチニしかウチコメナイからデス。オジョウサマの持つ趣味やリケイ的な学問のキョウミヤコウキシンもスバらしいのデスが、やはりソノ時ソノ時にシカマナベナイ貴重なタイケンやガクシュウもコンゴの人生で大変スバらしくキチョウなお勉強ナノです。ハイ」

「まぁ……ルーボがそう言うのなら……でも、お母様。何でこの恰好じゃなきゃ駄目なの? 普通の格好でいいじゃない!」

「それは、貴方が大人になる為の第一歩だからよ」

「何、それ。マジ意味分かんないんだけど……ルーボと結婚する事が大人になる事じゃないの?」

「いいえ。先生の下で勉強する事が精神的に貴方を大人にする事に近付くのよ」

私はルーボと母の無理やりの説得に圧倒されて、渋々と仕方がなく森小屋へ向かった。森小屋は徒歩で約4時間かかる距離だったけど、朝の6時に出れば10時に着くから、朝の9時頃には森の入り口に到着するはずだった。

時間をかけて森の入り口に到着すると、私と同じような格好をした8歳の少女達が世界中から集まってきていた。その数は1000人どころの規模じゃ無かった。あとで分かった事だが、実はこのイベントは1年以上かけて毎年行っている神聖なイベントらしい。つまり、この人数でさえも世界規模で見ると、1割にも満たないという事だ。森の入り口には前文明の18世紀だか19世紀頃のスーツを身にまとった皮が垂れきって腰が90度以上に曲がったお爺さんが杖を付いて私達を出迎えた。

「ようこそ。サマースクールへ。私は皆さんのサマースクールを担当する先生です。この地球上で唯一生き残る人間の男性という性別の人間です。まぁ、宜しくお願いします」

先生が挨拶した後は私達は先生に導かれて山小屋を目指して進んだ。

1時間かけて歩いて山小屋に到着した。山小屋は私達が過ごす学校よりも大きく広く見えた。外観は木造建築だったが、前文明における洋館のような立派な建物だった。私はその建物を見て、歓声を上げた。

「凄い……これ、先生が作ったんですか?」

「あぁ……そうですよ」

「じゃあ、先生は数学とか科学とか得意なんですか?」

私の質問を聞いて、先生はムスっとした表情で冷たく低い声で私に返答した。

「数百年以上前に忘れた学問だ……君は数学や科学や技術が好きそうだが、ここでは忘れなさい。そして、これからも永遠に…」

「何でですか?」

「後悔するからですよ……あんなものは究極を求めても人類に災厄しか招かない。核兵器で文明が崩壊したのは知っているでしょう? 残ったものはロボットと自律神経を持ったサーバーコンピューターと私だけだ」

「どういう意味なんですか?」

「……全ての学問の場合には知らなくていい真実もあるという事だ。数学や科学はタブーの……神の領域を土足で踏み荒らした。だから、文明は滅んで人類の男と動物が絶滅したのだ。究極を求め過ぎる事は自爆の道もあり得るという事なのだ」

「それって…」

私が先生に更に詰問しようとすると、横から肌が黒いお下げ髪の女の子が制止した。

「ちょっと、あんた。私達は陶芸や絵画や音楽を学びにきたのよ。魔法や錬金術や悪魔の降霊術の質問なら別の機会で聞きなよ」

おさげの女の子が私に警告すると、女の子の言葉を聞いた先生が突然頭を抱え出して、唸り出した。

「う……うわぁあああああああああああああああぁぁぁぁぁんんんんんんんん」

先生はそう叫んで、走り去りながら、学校の中に入って閉じこもってしまった。私達は鍵をかけられて数時間も外で放置させられる事になった。その間にお下げの女の子はみんなから言葉責めを受けて、泣き出してしまっていた。おそらく、先生のトラウマになる言葉を女の子は言ってしまったんだろう。先生は数時間も引きこもる程だから、よっぽど過去に苦い経験や傷跡を心の内に秘めたんだと思った。

先生が数時間の間、学校で泣き終わると、鍵が開く音がした。私達、少女達は各々に座り込んだり眠ったりして退屈な時間を過ごしていた。お下げの女の子だけはみんなから離れて赤い頭巾のような物を被って、物々とずっと独り言を言っていた。私の隣には緑色のリンゴを持ったカラフルなドレスを着た少女がリンゴを撫でて何か呟いていた。私はその声に耳を澄ませた。

「ハァ……私の白馬の王子様はあの方ですの……お母様」

少女はそう言うと、緑色のリンゴを一口齧ってスヤスヤと眠り始めた。私はその様子を見て、8歳はやはり空想と現実の区別が着かない少女なんだと、再認識した。そして、自分のませた性格に少しドギマギを感じていた。

「皆様……申し訳ない。小さなレディー達を危うく忘れるところでした」

「忘れんなよ! ボケ! クソジジイ!! さっさと飯を食わせろぉぉぉぉ!!」

先生が謝罪して扉を開けて出てくるとガラスの靴を投げ付ける少女も居た。彼女の格好はみすぼらしくて身体もガリガリに痩せ細っていて、育ちが悪いように感じた。私は彼女の行為を紳士淑女として恥ずべき行為だと思い、彼女をジト目で一瞥した。先生はガラスの靴が頭に当たっても、当たったところを擦りながら、「ははは」と笑って済ませた。私は先生の、その紳士的な対応を見て、急に胸が苦しくなった。もしかして、これが初恋というものなのかしら。私は心臓の鼓動を抑えながら、この感情の高ぶりを数式と方程式に当てはめて、必死になってこの謎の感情の解答を見つけようとした。

先生はまずは私達を指導する教室を案内した。教室には普通の学校のように木で作られた机と椅子が並べられていた。先生によれば、翌日になると健康診断があって、そこで裸になって、健康な子と不健康な子を選別して不健康な子は家へ送り返すと言った。体育の授業がある訳でもないのに、何故不健康な子を送り返すのかはよく理解出来なかった。でも、今の私には先生の命令なら何にでも従えるように思っていた。あの日が来るまでは……。先生は授業を始める前に他にも忠告をした。それは個室となる生徒それぞれの寝室はプライベートな場所なので、お互いの部屋を行き来してはいけないというものだった。特に深夜の時間帯は猛獣が出る時間らしいので、絶対に個室の行き来はしてはいけないという。よくよく考えれば、この世界に猛獣となるほどの生き物は居ないはずなのだが、先生によれば異次元の世界と通じる空間があるらしく、そこから過去や異界の魔獣が現れることがあるのだという。私は興味心と好奇心から、その魔獣と呼ばれる生き物の姿を見たくなり、心の中でタブーを破る事を決意した。

先生が学校で閉じこもっていたので、既に夜の6時を回っていたが、授業は始まった。最初は伝統工芸だった。見た事も無い不思議な色をした植物のツルと木の枝で私達は籠を編まされた。この籠は“ねこ”という籠らしくて、人の意志を吸収して年月が経つ事で持ち主の願望や野望を叶えることが出来るという籠だった。先生がオカルトやジャーマニズムのような精霊的な類の物を信じるようには思えなかったが、私は8歳の少女に夢を持たせる方便だと思い込んだ。ねこには不思議な魔力が宿っているようなのは確かだった。先生の話を暗示している為だったのかもしれないが、ねこのささくれで指を怪我した私の血はねこのツルと木の枝に吸収されていた。私はその奇妙さから背筋に鳥肌を立てたが、幻想だと思い込んでその出来事を忘れるようにした。ねこは何を積む籠なのか目的はよく分からなかったが、先生の話だと神仏を奉る祭具と同じものなのだと語り、本来の籠のように何かを積む目的はないと言った。

伝統工芸の授業が終わると、食事の時間になった。私達は植物の白い液体のスープとゼリーのような真っ赤な固形物を食べさせられて、食事は終わった。普段、私達が食べているものと何一つ変わらないものだった。

先生は部屋で過ごす際に全裸である事を強要した。私達は疑問に感じたが、よくよく考えれば着替えやパジャマのような物を持ってきていない事を思い出した。先生の話によれば、お風呂に入っても着替えが無いので、前日の服を着ていても臭く成るからという話だった。そう言えば、母は荷造りをしてくれていたが、着替えとなる物やパジャマは用意してくれなかった。まぁ、今は夏の季節だし部屋の中にはベッドやシーツがあるので寒さで凍える心配はなかったけど。部屋の中には空調が効いていて、温度を自在に変える事が出来た。先生に聞くと、“エアコン”とかいう前文明の家電らしい。どうやら、先生は前文明の事をよく知っているようで、私が知らない遺跡や地層から前文明の遺物や化石を発掘しているようだった。私はその話を聞いて、先生が文化的な学問どころか自然科学系統の学問にも精通している学術的な見解がある人物である事を認識した。私はその事を知って、ますます先生という個人に興味を抱いた。エアコンは前文明の面影を残していて、前文明のロストテクノロジー、ナノスキンによるコンパウンドによって、表面上に泥や石、空気が付着する事がなかった。

消灯時間の0時を過ぎて、部屋の中で私が一人で小説と日記を書いて過ごしていると、隣の部屋から大きな物音がする気がした。私は先生の言い付けを守る事を意識して、布団を被って、羊を数えながら、必死になって寝ようと試みたが、気になって眠れなかった。私は全裸の状態で隣の部屋の壁に聞き耳を立てた。誰かの「ハァハァ……」という荒れた息切れした声とギシギシと響く何かの音が聞こえてきた。そう言えば、先生は過去の猛獣や魔獣が行き来する空間があると言っていた。私はその言葉を思い出して、布団から飛び起きて、隣の友人を救う事にした。私は全裸の状態で飛び起きて、自分の部屋を開けて、隣の部屋の様子を見に行くことに決めた。

隣の部屋は先生に“ガラスの靴”をぶつけ痩せ細ったみすぼらしい女の子の部屋だった。私はどぎまぎしながら、隣の部屋の扉の鍵穴から覗き見をする事にした。そこではとんでもない光景が広がっていた。私が見たものはベッドの上で眠っている女の子の顔を殴り付けて、仰向けの女の子の身体に向かってまたがった先生の姿だった。女の子は睡眠薬か麻薬のようなものを飲まされているようで、殴られていても起きなかった。その瓶が机の上に置かれていたからだ。先生も裸になって、見た事も無い真っ黒な棒のようなものを下半身にぶら下げて、少女と合体しようと少女の下半身に位置を合わせた。私は初めて見る光景に自分自身も何か熱い気持ちが込み上げるようになっていた。何故だかは分からないが、私はその時に声を漏らしてしまった。後ろを向いていた先生は振り向いた。

「誰だ!」

私はすぐに走り去って、自分の部屋に鍵をかけて布団の中に潜り込んで枕で自分の頭を覆い隠した。

「……アリスかぁ、駄目な子だ……あれだけタブーは破っちゃ、駄目だよ……と言ったのに…」

隣の部屋から先生の荒れた息遣いと声が聞こえてきた。私は身体を震わせて、声を押し殺して泣く事しか出来なかった。先生の声は壁際にだんだん近付いて、大きくなっていた。その声は囁き、低く、鈍かった……。

「アリス………今から、そっちへ行く……タブーを見られたからには、タダじゃ済ませないよ……タダじゃ……タダじゃ……な」

先生はそう言うと、私の部屋の壁を叩き始めた。壁は老人の力じゃ壊れるはずがないと思っていたけど、壁が段々と軋み始めて、最終的には粉々に壊された。

「アリスゥ~~~! 見てくださいよォ!! 私の、この鍛え上げられた素晴らしき肉体をゥ!! ふんぬ!!」

先生はそう言うと、壁をタックルで完全に破壊して私の部屋に侵入してきた。私はベッドの上で布団にくるまって震える事しか出来なかったが、その布団も先生の馬鹿力によってビリビリに破かれて剥がされた。

「ひぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」

私は人生の中で今まで出した事も無いような声を出して、涙目になっていた。先生の身体は筋肉質になっていて、下半身が毛深い緑色の馬のようになっていた。顔は老人そのものだが、身体は中年の見た目のように美しくなっていた。

「アリスゥ……何故だ? 何故、君のような頭の良い子はルールの大切さを分からなかった?」

「だって、隣の部屋から物音がしたし……先生が…魔獣が出る空間があるって……」

「ん? 言いましたよォ! 言いましたとも!! でもね! 私はその間は部屋から出るな! と言ったんだ! お前の場合は好奇心と興味から来た行動なのだろうがァ!! この、メスガキがァ!!!」

先生はそう言うと、下半身にある棒のような物を堅くして、私の口元に近付けた。私の四肢は先生の足の蹄と爪によって、バラバラに裁かれた。私はあまりの苦痛で声が出なかった。

「せ、せぇんせぇい……な、何をしてたんですかぁ……」

「ん? 何をしてたァ?」

先生は私の涙と涎と鼻水を流す姿を見て、私の頭を掴み込んで、後ろのベッドへ叩き付けた。

「決まっているだろうが!! 人類を絶滅させない為の大事な行為さ!!」

「だったら、何故正直に……言わないんですかぁ……」

「俺はな! 前文明の最期の男の生き残りさぁ!! 俺は最期の発明で悪魔と契約して老けても、死ねない身体になったんだ! そんな事が恥ずかしくて、言えるかァ! ボケェェェェイ!! それに、女共はSEXを不潔扱いする! だから、俺は何も知らないガキに種付けして、人類の数を増やしてやっているのさぁ!!」

「そ、それは違う……性行為は愛を育んでから……行うものなのに……」

「これだから! ガキャァァァは!! いいか! 男が一人しか居ない状況でな! 一々、女を1匹ずつ口説いていたらなァ! キリがねぇんだよォ……女なんてのはな! ガキの間に、犯すしか増やす方法がなかったんだよォォォォォ!!」

「な、なんで……男は先生一人だけ……」

「核兵器の影響さァ!! 俺がアメリカ政府に頼まれて作った、最強の兵器だった! 俺は人類史上最高の科学者だったからなぁ!! だが、核兵器の放射能汚染で人間のY染色体が世代が経つ毎に消失して、男が俺一人だけになった。だから、俺は罪の自責から、悪魔を召喚して最期の男として、お前等に種付けして、人間の数を増やしているんだよォ!! 感謝しろよォ!! メスガキが!!」

先生は身体を変身させてから、理性を失っているようだった。先生の話を聞いていると、科学を忌み嫌い、科学が進歩し過ぎるとオカルトや魔法の世界と遜色がなくなることも、この時に理解した。おそらく先生は自責の念から人類を救う方法を考えて、悪魔や魔法のある世界との交信に成功したのだろう。そして、先生は悪魔に執り付かれて、自意識が消失していた。

「私を……どうするつもりなんですか……」

先生は私の頬に唾を吐いた。

「決まってる!! 生きながら、殺すだけだ……アリス、ちゃん」

先生はそう言うと、不気味な笑みを浮かべながら、眼鏡のレンズを光らせて私の髪の毛を一本残らず引きちぎった。

数十年後、タブーを破った私は荒野にある塔に閉じ込められる事になった。老婆になった私は異端者・変質者という扱いを周囲から受けて、とてつもない拷問と侮辱の数々を受けてきた。頭は脳が透けて見えるほど、頭蓋骨が削られて目玉はスプーンでくり抜かれて、舌は引きちぎられて、下顎は取り除かれて、歯も1本残らず引きちぎられた。女性のシンボルである乳房も取り除かれ、老婆になった私は毎日泣く事しか出来なくなった。振り返る事は「(タブーを破らなければ良かった…)」という後悔の念だけであった。私は幼少期の頃の己の好奇心と無邪気な興味心を呪った。先生によって魔術をかけられた私は死にたくても死ぬ事は出来ない身体になった。身体は老けていくだけで死ねない恐怖こそが一番の恐怖だった。私は自分の幼少期の行動と思想をただただ振り返り、母とルーボに心の中で謝罪する事しか出来なかった。

 

 

 

 

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