ご褒美のステーキ

2016年02月18日

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ご褒美のステーキ

僕は小学5年生だ。生まれてから10年、まだ一度もビフテキ(ビーフステーキ)という御馳走を食べた事がない。いや、動物の肉そのものを食べた事がないのだ。何故かって? それは地球の総人口が100億となり未曾有の大災害に襲われて、世界中のみんなは食うものがないからだ。こういう事態になっても世界政府は宇宙に人類を移住させる計画(テラ・フォーミング)も人類の数を制限する方法も何も考えなかった。

「おーい、真八、トンボ狩りやろうぜ!」ガキ大将の声が聞こえてきた。僕は学校帰りの途中だった。トンボ狩りは昆虫採集のような趣味や遊びでやるようなものじゃなかった。死活問題に関わる大事な生業だ。人口100億人を突破したこの時代では中世ヨーロッパのように子供も小さな大人として扱われた。僕らのこれからやるトンボ狩りは魚釣りとほぼ同義の遊びを兼ねた食料採集だった。

「いいよ、どうせ苦いだけの養殖昆虫だろ・・・・・・・それに虫はぼく、嫌いだ」

「ま、いつもの事だな。気を付けて帰れよ。最近人さらいが多いみたいだからな。それと虫でもなんでも肉食わないといつまでももやしだぞ、お前」

ガキ大将が呆れた表情で僕を見ていた。この世界は魚も鳥も動物も居ないけど、高カロリーでタンパク質のある昆虫だけは天然が少ないものの養殖が数多く居た。みんなは肉と言うと、虫を食べるのだが僕は見た目そのままのグロテスクな姿で調理される昆虫料理が嫌いで虫なんか食べたくなかった。

「いいよいいよ、次の成績表でオールA取るから。そしたら、ビフテキが食える」

「またホラ言ってやんの。いっつもそればっかだな、お前。全国でも滅多に居ないのに食えるかよ。まぁ、いいや。じゃーな」

ガキ大将は指をさしながら僕を見て笑って帰ったけど、僕は本気だった。この世界では虫以外に動物の肉を食える唯一のイベントがあった。それは成績表だ。成績表で全ての科目でオールAを取れば、その者だけ給食でステーキが頬張れる。大人の場合は仕事上のプロジェクトの達成だ。プロジェクトを達成すればアルコール飲料と肉が与えられた。

僕は家に帰った。家に帰ると普段居ないはずの父がソファで新聞を読みながらくつろいでいた。「あれ? パパ、今日仕事は?」「プロジェクトが成功したから、早引きさせてもらったんだ」ソファの向かい側では生真面目そうなアナウンサーが原稿を読み上げていた。”昨日、午前4時頃大阪の住所不定無職の男性数名が一斉に行方不明になりました””次のニュースは無職の無二室生さんが行方不明となりました””最後のニュースです。本日の19:00を持ちまして、世界の人口数が90億になりました”

「またか……」父が新聞を折り畳むとテレビの方を見つめていた。「ニートにホームレス、人さらいに遭うのはいつもこういう人達だな」「ねぇ、パパ。人さらいって怠け者しか襲わないの?」「いや、人さらいは成績の悪い落第生や仕事の出来ない奴も平気でさらっていくぞ」僕はその言葉を聞いた途端、背筋に鳥肌が立った。「人さらいはとにかく駄目な奴と怠け者を嫌ってるからな。大人も子供も関係ない。お前も努力して勉強しないとさらわれるぞ」「脅さないでよ」「脅しじゃない、マジな話さ」父の表情は真剣だった。普通の世界なら大人が子供にこういう話をするのは脅しで済むのだが、この世界はこういう話が常識になってるから恐ろしい。行方不明になった人達がどこへ行くのかは分からない。だけど、無職や不登校児以外は遠い世界へ行ったということを大人達は教えてくれる。だから、勉強が出来ない子や仕事が出来ない大人でも外国へ行って生活してるものだと思っていた。

「ご飯、出来たわよ」母が夕食の合図をした。父が嬉しそうな顔で椅子についた。「今日はね、パパの大好物のカブトムシの幼虫の活き作りとミールワームの姿煮よ」僕はその料理名を聞いた途端、吐き気がきた。「ぼく、食欲ないからいい・・・・・・・樹液ミルクだけ飲んでいくよ」「あら、そう…」母が残念そうな顔で肩を落としていた。一方の父は怒っていた。「真八、飯を食わんからチビのままなんだぞ! いいか、虫は見た目が気持ち悪いが調味料一つでステーキよりも旨いんだぞ!」「なら、ステーキの方がいい。明日は成績表貰う日なんだ。明日食べるよ」「ステーキが出るのか」「分からないけど、自信はあるんだ。明日給食で食べられる自信がある」僕がそんな事を言うと、突然母が泣き出して僕の両肩を掴んで揺らしながら僕の顔を見た。「真八、お願いだから食べないで! あれは人間の食べ物じゃないのよ」「なんでだよ! 図鑑で見た”牛”の肉なんだろ! 虫なんかより動物の肉の方が良いに決まってるだろ。ママ、なんで肉を食べたらダメなんだよ! 成績がオールAでステーキ食えるんだよ! 喜んでよ」僕がそういうと母は気を落として座り込んで泣きじゃくてた。父は青ざめた表情で無関心を装いながらカブトムシの解剖に集中していた。「とにかく、俺は牛肉を食うからな! 絶対だ!」

次の日、僕の予想通り成績表はオールAだった。クラスを見渡すといつものガキ大将が消えていた。また一人減ったのか……いつもそうだった。誰かが良い成績を取ると落第生が消える。クラスの暗黙の常識だった。給食では僕だけ高級レストランさながらのビーフステーキとライスとスープが用意されていた。料理の見た目は図鑑で見たものそっくりだった。人類はありとあらゆる動物を食糧目的で乱獲し過ぎて絶滅させたが、この牛っていう動物だけはどこかの研究施設で養殖していることを聞いていた。僕は子供のようにはしゃいで扱い慣れていないナイフで綺麗にステーキを切っていって一切れを口の中に放り込んだ。だけど、なにか味がおかしかった。おかしい。突然涙がこみ上げてきて涙のようなしょっぱさしか脳に伝わらなくなっていた。ステーキ以外は図鑑で見た予想通りの味だったけど、ステーキだけ違和感があった。なにか悲しい。僕は思いきって無愛想な先生に聞いてみた。「先生」「なんだね」先生が無表情で僕の方を見つめた。

「これは本当にステーキなんですか」「ステーキだよ」先生の簡素な回答に満足できない僕は思い切って核心をついてみた。

「牛肉……なんですよね?」

 

先生の回答を聞き終える前に僕は目の前の光景をシャットダウンしてそのまま倒れ込んだ。

次に気が付いた時はベッドの上だった。

 

 

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